【守護■■】

 私は生まれつき、霊感が強い。まだ小さなころから、人ならざるものを見てしまうことがよくあった。けれどそれで怖い思いをしたり、なにかしら害を及ぼされたという記憶はまったくない。
 どうやら私には、相当に強力な守護霊がついているらしく、それが悪霊から私を守ってくれているようなのだ。
 ある日、私の敬愛するR先輩と、その守護霊についての話をしたことがある。


「いいわよね、あんたは。背後霊に守ってもらえてさ」
 放課後、学校からの帰り道。私の隣りを歩くR先輩が、半眼で言った。
 同じく強い霊感を持ち、日常的に霊からひどい目にあわされているR先輩は、私のこの体質を非常に羨ましがっている。
「私なんて毎日のように霊障にあってるのに。同じくらい見えるくせに、不公平だわ」
「そう言われましても」
 恨みがましい視線を向けてくるR先輩に、私は苦笑を返した。
「霊感も守護霊も、気がついたらなぜかあった、って感じですからねー。そもそも私、どんな霊が守ってくれてるのか知りませんし」
 肩越しに背後を振り向いてみるが、何も見えない。
「鏡とか見ても、背後霊なんて見えたことないし。あ、先輩なら見えますか? 私の背後霊って、どんな人?」
「んー……そういえば、私にも見えないわね。まあ守護霊って見えにくいもんだけど」
「そうなんですか?」
「この世に未練を残してる普通の霊と違って、守護霊には基本的に、こっちに訴えかけたいことがないからね。向こうがこっちに用があったり、偶然にでも波長が合えば、見えるかもしれないけど……気になるなら、占い師かなんかに見てもらえば?」
 とR先輩。私は眉根を寄せて、
「それがですねー。昔、本物っぽい占い師の方に何度か見てもらったんですが、わからなかったんですよ」
「へえ」
「どの占い師も『あなたには凄く強い守護霊がついている』『ずっとあなたを守ってくれる』って太鼓判を押してくれるんですが……どんな霊がついているのかを聞くと、なんだか口を濁すんですよね。『それはほら、アレよ。まあ、この際それはいいじゃない』みたいな感じで」
「ふぅん。何が憑いてるのかしらね」
「なんなんでしょう。まあ守ってくれるのなら別になんでも構わないんですけど」
「どうかしら。悪霊よりも、よっぽどタチ悪いのが憑いてるのかもよー?」
 R先輩はそう言って、にやぁと意地の悪い笑みを浮かべる。
「なんですか、それー。やめてくださいよぉ」
 冗談を言われたのだと思って、私は先輩に笑い返した。
 その時。R先輩の眼がふっと動き、私の背後を見た。
 瞬間、先輩の顔が凍りつく。何かとんでもない、絶対に見てはいけないものを見てしまった、とでもいうような表情だった。
 それもほんの一瞬のこと。R先輩はすぐに、何もなかったかのように、いつもの平然とした顔に戻っていた。
「……先輩?」
 前を向いて、無言ですたすたと歩き続けるR先輩に、私はおそるおそる聞いてみた。
「あの。今。私の背後に、何か見えました?」
「いいや。私は、何も見ていない」
 あくまでこちらを見ないまま、R先輩は、きっぱりと首を振った。
 別にそれだけの、どうということのない、ある日の話だが――思えばこの日から、R先輩は私の守護霊を、あまり羨ましがらなくなったような気がする。


 私は昔から霊感が強い。けれど、私には悪い霊が寄りつかない。強力な守護霊がいて、私を守ってくれているのだという。
 どんな霊が、どうして、私を守ってくれるのか――それは誰も教えてくれないけれど。