メフィストフェレスの椅子

 悪魔ってのはクソッタレだ。
 クソ、クソ、アンドクソだ。燃え盛る森の中、俺は必死で逃げながら呪詛を漏らしつづける。
 昨夜のこの時間までは、俺は久々の休日を、優雅に過ごしていた。趣味の椅子作りを終えてのんびりと茶を飲んでいた俺の目の前に、あのクソ道化魔王――イカれ悪魔のベールゼブブが現れるまでは。
「明日の夜、塔の男を討つ。戦力は多ければ多い方が良い。お前の部隊を召集しろ」
 いつになく真面目くさった顔の、道化姿の魔王にそう告げられ、俺は一も二もなく任務に着いた。俺のような、たかが前線の部隊長レベルの木っ端誓約者に拒否の自由などない。突発的に任務が入るのはいつものことだった。
 だが、集合地点に着いた俺は目をむいた。そこには俺と同じ誓約者がうじゃうじゃとひしめき合っていたのだ。それもベール派だけじゃない、ルキフグ派にベリアル派、三派閥の誓約者が勢揃いだ。暗殺リストトップの『塔の男』が標的とはいえ、どう考えてもオーバーキルだろう。聞けば、このアホみたいな合同作戦を立案したのはあのベールゼブブらしい。悪魔ってのはどいつもこいつもイカれてるが、あの魔王は極めつけだった。いや――
「それでも、あれに比べりゃ、ゼブブの方がまともかもな……」
 大きな樹の影にかくれて炎をやり過ごしながら、俺はそいつの方を見た。荒れ狂う炎の中で躍る悪魔。狂った魔王を。
「アババッ!!あば、あば、あばばばっ!」
 赤い肌をした猫目の魔人。うねる炎の大蛇にまたがり、焦点の定まらない目でよだれをたらしながら、逃げ惑う誓約者たちを次々と火だるまにしていく。
 アイン公爵――ベール派の上位魔王だ。『塔の男』襲撃のさなか、味方のはずのアインがなぜか突如として発狂、自派閥だろうがお構い無しに攻撃し始めたのだ。
 躰化者であろうが魔法則師であろうが、本気の魔王の殺意に太刀打ちできる者などいない。当然、部隊は大混乱に陥り、なすすべもなく壊滅した。
「あびゃばばばぁっ!!ず、ずばっ!ばばらばばぁっ!!」
 壊れた目付きで哄笑を上げるアインに、俺はぞっとする。ほんのついさっき――襲撃開始の十数分前、ちらりと姿を見かけたアインは、いたって正気だった。ベール派にもあんなまともな魔王がいるのかと、俺は感心していたのだ。それがこの有り様。ベール大主の崩御に伴う自我崩壊とやらか?まったくもって、悪魔ってのはクソッタレだ。
「へ、陛下!どうかお助けを!陛下ぁ!」
 俺の隣では、役立たずの魔法則師が、無意味な命乞いをしている。かつてのアインならいざ知らず、今のあれが言葉の通じる相手にでも見えるのか――いや、待て。
 その魔法則師が必死で話しかけているのは、すぐそこで暴れている魔王ではなく、古めかしい手鏡だった。俺の怪訝な表情にも気付かず、鏡に映る己の姿に向けて、魔法則師は必死に窮状を訴えている。
「アイン閣下がご乱心され、部隊は壊滅状態です!!魔法則は封じられ脱出もできません!もはや我々の手に負える状況では――どうかお力を――――」
 瞬間、殺気が炎となって膨れ上がった。俺は咄嗟に躰化し、魔法則師をひっ掴んで離脱する。だが、遅かった。
 アインのもたらす地獄の業火は、ほんの一瞬で魔法則師を焼死体に変えていた。躰化したことで俺のダメージは軽微だったが、六十秒が経てばこの体は三分間、身動きがとれなくなる。それまでに安全な隠れ場所を見つけられなければ――
 そう遠くない距離で、狂った哄笑が聞こえる。全速力で逃げる俺の後ろから、熱と殺意が蛇のごとくにうねりながら迫ってくる。絶望しかけた俺の耳に、この地獄に似つかわしくない冷静な声が聞こえた。
「アインを映せ」
 声は、炭化した魔法則師が抱える鏡から響いていた。ただの骨董品に見えたその鏡は、炎に巻かれたにも関わらず煤ひとつ付いてはいない。
 頭で理解するより先に、声に操られるように俺は、炭化した魔法則師の持っていた鏡を迫り来るアインに向けていた。
「あばばばぁ!なんてっ、なんてっずばっずばらっ――あば?」
 狂喜に満ちたアインの表情が、一瞬、歪んだ。
「――あばああああっっ!!!?」
 次の瞬間、炎がはぜるように掻き消え、アインが大きく後ろに吹き飛ばされた。
 目で見たものが信じられずきょとんとする俺の視界で、アインが跳ねるように立ち上がる。牙を剥き出して飛びかかってくるアインの体が、再び地に叩きつけられる。
「ぐぅぅるがあぁぁ!ぎぃぃぎょおぉ!!」
「……言葉すら失ったか。貴族魔王ともあろう者が」
 獣じみた唸りを上げるアインに、鏡の中から冷たい侮蔑が投げ掛けられる。俺は鏡を覗き込みたいという好奇心を抑え、アインを鏡に映し続けることに意識を集中していた。
「あばびっ!ずばらば!!ずらばじらばろぼぉおえぇぇ!!!」
 見えない子供の手に弄ばれるオモチャのように、アインの体は宙を舞い、何度も地面や岩に叩きつけられる。彼が必死に生み出す炎も、広がることなく消し去られた。
「あばっ」
 やがて、地に伏したまま動かなくなるアイン。静まり返った空気の中、俺はおそるおそる鏡を覗いた。
 当たり前だが、鏡の中には俺が映っている。いや――実際の俺と、明らかに違う部分が一つ。鏡の中の俺は、似合わない山羊髭をたくわえていた。山羊髭の虚像が、冷徹さをにじませた声音でささやく――
「さて……事情を説明してもらおうか」
 それが俺と、魔王メフィストフェレスとの邂逅だった。

「献上品?」
 椅子を作る手を止めて、俺は聞き返す。爺姿の妖魔は、「じゃからぁ」とじれったそうに繰り返した。
「助けて頂いたのじゃろうが。畏れ多くも、メフィストフェレス陛下自ら!何の謝礼もせんで済むと思っとるのか!」
「アインが暴走して、作戦がめちゃくちゃになったんだろうが。俺のせいじゃない」
「アイン陛下もベール派じゃろがい!この一件でベール派がベリアル派とルキフグ派にどんだけ借りを作ったか、わかっとらんのかお前さんは!」
「うるせえな。どうしろってんだよ」
 ヒステリックにわめく妖魔爺に俺は顔をしかめる。
「魔王様方の貸し借りに関しては、わしらなどの関知できることではない。じゃが礼は尽くさねばならん、特に、直接陛下に助けて頂いたお前さんはな。何でもよい、用意できる最高の物を献上せい」
「んなこと言われても」
「ええいそれでも『たましい』を持つ人間か!何でもえーからなんか創造できんのか!」
「創造……」
 俺は作りかけの椅子に目を落とす。椅子作りは本当にただの趣味だ。流木や端材を使ってそれらしい形に仕上げるのが楽しいというだけで、金を取れるほどの物が作れるわけではない。だが、胎界主とやらでもない俺にできる創造行為は、せいぜいこれくらいだ。
 俺はため息をついて、椅子作りを再開した。誰かにあげるために椅子を作るというのは、考えてみれば初めての経験だった。魔王様のお気に召すかは知らないが。

『塔の男』襲撃作戦の失敗に関するゴタゴタは、結局、数人の誓約者の派閥間トレードでカタがついたようだった。(それどころでなかったのですっかり忘れていたが、塔の男は騒ぎにまぎれてまんまと逃げおおせたらしい。運の良い野郎だ)
 まあ、どうでもいい。俺たち下々の者にとっては、生き残れたという結果がすべてだ。HEADのようなクソ組織でも出世したがる物好きには違うのだろうが。俺は自分が生き残れればそれでいい。
 俺の椅子は他の献上品とまとめて妖魔爺が持っていったようだった。評判がどうだったかは知らない。考えてみれば、世界の大半を手中に収め、あらゆる贅を極めるであろうHEADのトップに、素人の工芸品を送りつけるなどコケにしているも同然かもしれない。
 その日も仕事だった。霧けぶるロンドンの裏通り。俺はHEADを脱走した誓約者を狩る任務についていた。
「待てコラァ!」
 逃げる若い男の背に、罵声を浴びせながら追う。寂れた商店通りの割れた石畳に足をとられて、男が転んだ。俺はすかさず馬乗りになり、拳を振り上げる!
「終わりだこのクソ野――」
「待て」
 聞き覚えのある冷徹な声に制止され、俺は動きを止めた。
 通りに面した服屋のショーウィンドウ。そのガラス面に鏡のように、俺と脱走者の姿が映っている。そしてその奥……誰もいないはずの位置に、椅子に腰かけた人影が見えた――
「ぐっ!?」
 瞬間、何者かに首を掴まれ、俺は鏡の中へ引きずり込まれた。

「ひぃぃっ!!わ、わかりました!再誓約します、もう逆らいません!どうかお許しをぉ!!」
 ぼんやりとした意識で、俺は命乞いの声を聞いていた。
 気絶していたらしい。見覚えのない、奇妙な部屋に俺はいた。中世ヨーロッパの王室を上っ面だけ真似したような、ちぐはぐな内装だ。
 その部屋の中央、さっきまで俺が追っていた脱走者の男が、頭を地に擦り付けるようにして震えている。椅子に腰かけた「それ」へ向けて。
 礼服に細身を包んだ、オールバックの壮年の男だ。パイプをふかしながら、整えられた山羊髭を撫で付けている。いかにも紳士然としたその姿の中で、切れ長の瞳の奥に覗く怖気をふるうような光だけが、「それ」が人間ではないことを告げていた。
(魔王メフィストフェレス……)
 かつて塔の男の庭で遭遇した、ベリアル派の最上位魔王がそこにいた。どうやら俺たちのいるここは、噂に聞く鏡の世界、魔王メフィストフェレスの専有胎界であるらしい。
 魔王がじろりと瞳を動かし、こちらを見た。
「この誓約者の身柄は、我らベリアル派が預かった」
「は!?」
 思わず食ってかかりかけ、我に返って口をつぐむ。相手は君主だ。立場上、間違っても口答えなど許される相手ではない。
「この者の上司……ベール派のビフロンスに話は通してある。何か問題はあるか?」
「い、いえ……ありません、閣下」
「ならば良い。下がれ」
 魔王が指を鳴らすと、脱走者のうずくまる床に音もなく穴が開いた。「うひぃぃぃぃ――…………」と情けない悲鳴とともに、脱走者が吸い込まれていく。
 俺もどこかに落とされるのかと身構えたが。魔王は指を立てたまま、何か腑に落ちない様子で俺を注視している。
「お前……以前に会ったな」
「え、あ、はい。塔の男襲撃の際に、陛下には命を救って頂きまして……」
「覚えている。否、否……『思い出した』。そうか、あの時の……」
 昔を懐かしむような口調――というわけでは、まるでなく。
 例えるなら、命がけのクイズを答えさせられているかのような真剣きわまりない表情で、魔王は何かを考えこんでいた。俺は何がなんだかわからず、居心地の悪い気持ちでその場に跪いていた。
「アインの自我崩壊……塔の男……………ベールゼブブ…………そうか………そうだったのか………」
「あのぅ、陛下……」
「急用ができた」
「は?」
「私はこれよりベールゼブブの専有胎界に出向く。お前は……そうだな、二日……いや、三日後に、『私の元へ椅子を持って』来い。必ずだ」
「失礼ながら陛下、おっしゃる意味が私には……」
「話は以上だ。下がれ」
 俺の問いかけには答えず、メフィストフェレスはそう言い捨てる――次の瞬間には、俺はロンドンの裏通りに一人、座り込んでいた。
「………」
 何もわからない。メフィストフェレスが何を焦っていたのか。なぜ素人工作の椅子をご所望なのか。だが、ひとつだけ、確実に、理解できたことがある。
「やっぱ、魔王って頭おかしいわ……」
 HEADに所属して以来、何度も何度も味わわされたその真実を、俺はあらためてしみじみと噛みしめた。

 三日後。俺は新たな椅子を持って、ベリアル派のサキュバスとコンタクトを取っていた。何のために椅子が必要なのかわからない以上、モチベーションはアガらなかったが、いざ作り始めてしまうと懲りはじめてしまい、結局、かなりの力作ができあがってしまった。
「お待たせしました」
 サキュバスがうやうやしく運んできたのは、アンティークの大きな姿見だ。俺が鏡の前に立つと、鏡面が揺れ、メフィストフェレスの姿が映される。
「陛下。ご所望の椅子でございます」
「………椅子?私が、お前に椅子を望んだと?」
 魔王はなぜか怪訝そうに聞き返してきた。俺は俺で、その反応に面食らう。ついこの間のことをもう忘れてるのか?本当にイカれてるのだろうかこの魔王陛下は。……あ、やべ、思考が読まれるのを忘れていた。
「お前、私の前で、よくもそのような思考を……、………この間?」
 言葉の途中で、ガタッ、と上半身を起こすメフィスト
「まてまてまて、何だその記憶は?私は何も覚えて……いや、そうか、あの時、……たしかに…………だとすると、」
 身を乗り出してきたかと思うとすぐに頭を抱えて、ぶつぶつとうめき出す魔王。周囲に控えていた悪魔や妖魔たちも、突然の主の狂態にざわめき立っている。ベールゼブブのように普段からおかしいわけではないのか?なんにせよ、ご勘弁願いたい。椅子は持ってきたのだからもうとっとと帰りたい。
「お前ぇぇ!」
「はっはい!?何でござんしょう!?」
 いきなり、鏡面の向こうから大声で呼び掛けられて飛び上がる。魔王はなぜか満面の笑みを浮かべて、
「よくぞ来た!この私の前に、よくその椅子を持ってきた!素晴らしいぞ!」
「こ、この身にあまるお言葉にございま」
「帰れ!!」
「えぇ……」
 思わず困惑が口から漏れる。魔王は気にした様子もなく、笑顔のまましっしっと『帰れ』のジェスチャーをしてくる。
「私は用事ができた!忙しいから帰れ!ああ土産は持たせるから心配するな!いやあ、今日はよく来たな!また三日後に椅子もってこい!帰れ!!!」
 一方的にそれだけを言って、ぶつりと映像は途絶える。ただの鏡に戻った表面には、心底うんざりした表情の男が写っていた。

 うんざりしたところで、この謎のクソ任務は続いた。メフィストの指定は三日の時もあれば一ヶ月後の時もある、翌日の時もあった。
 もはや恒例といって差し支えないというのに、メフィストはなぜか毎回、最初だけは初耳のようなリアクションをしてきた。
「椅子……?おお、そうか……思い出したぞ!」
「……椅子?……椅子、椅子、椅子、………椅子か!そうだ、そうだった!!」
「椅子だと?……………ああ、あーあー、あーあーあーあーはいはいはい!!椅子な!!それな!!!」
「椅子がどうし…………ぃい、椅子ぅうううううううううう!!!?あああああ!!!!」
 最後あたりは床に転げ落ちながらの絶叫だったが。正直、毎回どん引きだった。初めて会った時の冷酷紳士っぽい姿は何だったんだ。びびってた俺が恥ずかしいだろうが。
 とはいえ、クソ任務をこなすたびにメフィストが持たせてくれる『お土産』はそれなりの金額だった。俺はそれをベール派への上納金に回し、手柄を譲ってもらったりヤバそうな任務は避けたりしながら、それなりの地位を得ることに成功した。「あのメフィストフェレスお気に入りの椅子職人らしい」という風評も、そこそこ役に立たなくもなかった。職人でもないし、そもそもお気に入りかどうかも怪しいものだったが。メフィストが俺の作った椅子に座っているところを、俺は見たことがなかった。
 憶測でしかないが、「俺が椅子を持っていく」という事象それ自体が、メフィストにとって、何らかのトリガーになっているのだろう。つまり。
 魔王が必要としているのはおそらく、この椅子自体ではない。それくらいは、わかっていた。

「おめえ、出るんだろう?」
「……何が」
 いきなり部屋に訪ねてきた同僚の開口一番に、俺は椅子を組み立てながら聞き返す。今や、いつどこであれ、俺が椅子を作っているのを見咎める者はいなかった。
 同僚は俺の返事が気に入らない様子で、「ケッ」と口を尖らせた。
「スカしてんじゃねーや。『招集』に決まってんだろうが」
「俺らは招集免除されてるよ。知らねえのか」
「お前こそ知らねえのか!最終日の『本戦』には賞金がでるんだぜ!解体されるベール派の余剰資産!それを――」
「ルキフグ派かベリアル派に上納すれば、幹部になれるってか?」
 そう上手くいけばいいが、と俺は鼻で笑う。悪魔どもに先はない。最上位の魔王ですら、自我の崩壊は始まっている。遅かれ早かれ、ルキフグ派もベリアル派も、ベール派と同じ末路をたどるだろう。そして――
 悪態をつきながら、このクソッタレ組織に依存するしかない俺たちのようなクズにとっても、それは同じだった。先はない。出口などない。どこにも。
「そんなに悲観するなや、兄弟」
 隣に座った同僚が、ぽんぽんと背を叩いてくる。
「優勝すりゃあいいんだよ、ハヌマ。いつも通りさ、勝てば生き残れる。ブコウスキー兄弟なら、どの派閥だろうとすぐに返り咲ける――俺らはその後をついてきゃいい、面倒くさいことは奴らに任せときゃいいのさ。今までだってそうしてきたろ?」
「……そうだな」
 俺が首肯すると、同僚は「ムケケ!」と満足げに笑った。
「お前なら予選は楽勝さ、ハヌマ。なんたって、俺ら『インド八人衆』の一員なんだからよ。まあ、俺らの中じゃ一番の小物だがな!ムケケケ!!」
「うるっせぇよ!」
 クソッタレな同僚に蹴りをかましながら、俺はかたくなに椅子を作り続けた。
 この椅子は、俺の遺作になるかもしれない。クソッタレな俺が、クソッタレな魔王に捧ぐ、クソッタレな椅子。誰が座ることもない。誰からも、本当には必要とされていない椅子。笑ってしまうくらいにそれは、俺自身の鏡像だった。




 薄暗がりの中。一揃えの家具たちが生き物のように、ひとりでにゴトゴトと動き回っていた。だが、やがて動きが止まる。
「やめだ」
 メフィストフェレスは、ぱたりと腕を下ろした。パイプの煙と共につぶやく。
「やはり私には、インテリアの才はないな」
 そしてふと、今まで動かしていた椅子を見た。座ったことはないが、この椅子はお気に入りだった。しかし、いつどこで手に入れたものだっただろうか?
 だが、すぐにどうでもいいことだと思い直し、紅茶を淹れることにした。