【おこたとみかん】

「だいたいさ、取り憑かれるっていうのは甘えなのよね」
 おこたでみかんを食べながら、R先輩は言う。
「よく、自分や家族が悪霊に取り憑かれて妙な行動をとる話とかあるけどさ。甘えよ、甘え。心身ともに健康なら、霊に取り憑かれたりしないっての。死んだヤツの怨念なんて気合いで跳ね返しなさいよ気合いで」
「はあ」
 皮を剥かれ、白い筋のきれいに取り除かれたみかんが、こたつの上にならんでいる。それを食べながら、R先輩はぶつくさ文句を言う。
「まったく。『取り憑かれた人間』に、私が今までどんだけひどいめにあわされてきたか。霊より人間のほうがよっぽど怖いわよ。いやそうでもないか」
「なるほどです。ところで先輩、わたしもみかんもらっていいですか?」
「勝手に食べなさいよいっぱいあるんだから。ていうか、なんでこんなにたくさん剥いたの? 食べる分だけ剥けばいいでしょ」
「剥いたの先輩じゃないですか」
「は?」
「さきほどから一心不乱に剥いてらしたじゃないですか。きれいに白い筋まで取って」
「……私、そんなことしないけど」
「ええ。ですから何か意味があるのかなーと思って、わたし手をつけなかったんですが。……覚えてないんですか?」
「………」
 R先輩は無言で、既に剥かれていたみかんを、わたしの方に押しやった。まだ手つかずのみかんをカゴから手にとり、剥いて、食べる。白い筋は、取らなかった。